コードを1行も書かず、ほぼ読まずに作ったRTS──Simon Willisonが321コミットをClaude Codeに任せ、『もっと面白く』を1,200回の自己対戦で詰めた
著名開発者 Simon Willison が、ブラウザRTS「Battle Drones」を自分ではほぼコードを書かずに公開。約321コミットをClaude Codeに任せ、「もっと面白く」の一言に1,200回の自己対戦で応えた開発手法を追う。
著名な開発者 Simon Willison さんが、ブラウザで動くリアルタイム戦略ゲーム「Battle Drones」を公開しました。Command & Conquer を思わせる本格的な作りですが、本人いわく自分ではコードをほぼ1行も書いていないといいます。約321コミットの大半を、コーディングエージェント Claude Code に任せて仕上げました。
開発の多くは Claude Opus 5.5 と、複数のサブエージェントを束ねる「Ultracode」モードで進めたとのことです。Willison さんは「コードはほとんどレビューしていないし、自分がほとんど使ったことのない TypeScript で書かれている」と率直に書いています。コーディングエージェントを“どう使ったか”の実例として、見どころの多い事例です。
「もっと面白くして」に、エージェントが1,200回の自己対戦で応えた
転機は第4版でした。Willison さんが与えた指示は「このゲームはまだ面白くない。もっとずっと面白くして」という抽象的な一言です。
これに対してエージェントは、一晩で1,200回を超えるシミュレーション対戦を自動で回し、ユニットの強さやコストを調整しました。資源で大きく劣勢のチームが逆転できる確率は、24%から46%へ上がったとされます。
人間は「面白さ」というゴールだけを渡し、エージェントが自分でプレイテストして検証・調整のループを回す。これは「仕様を細かく指示して実装させる」従来の使い方とは別の手触りです。
一晩で3D化、45分でマップ生成
速度を示す場面も続きます。主な工程は次のとおりです。
- 3D化(第5版): ゲーム全体を Three.js へ移植し、3Dモデルを手続き的に生成。一晩で完了。
- ランダムマップ(第11版): 残りトークンを使い切る形で、5種類のバイオームを持つ点対称マップの生成を約45分で実装。
- 全体の規模: 建物9種・地上車両7種・航空機6種・歩兵3種、マップ6枚。スプライトの一部は OpenAI の画像APIで生成。
ゲームモードも、スカーミッシュ、生存ウェーブの「Last Stand」、AI同士の観戦、8ミッションのキャンペーン、そして別々のLLM同士が戦う対戦モードまで揃います。対戦モードでは、各モデルに“視界内の非視覚的な状態だけ”を渡すツールを介して戦わせる設計です。
サーバ無しの“音”で同期する多人数対戦
目を引くのが、2台の端末をマイク越しの音で同期させる多人数対戦です。サーバを介さず、チャープ音で状態を送り合います。
実装前には「Radio Probe」という帯域測定ツールを先に作り、音の通信路で十分なデータを送れるか確かめたといいます。ただし実際に家族と試すと「高音のモデム音で相手がひどい頭痛になった」ため、WebSocket を使う通常の多人数対戦も別途用意しました。こちらのリレーサーバは Fly.io の最安枠で動き、アクセスが無いとゼロまで縮むため、費用は月 $2.19 を超えない見込みとのことです。
もう一つ、地味だが重要な工夫があります。Chrome と Safari で標準の数学関数の結果がごくわずかに違い、リプレイが途中でずれてしまったため、決定論的に動く独自実装へ置き換えたといいます。
ビジネスから見た効き所
この事例が示すのは、「作れる人」の範囲が広がるという変化です。本人がほとんど経験のない言語・ジャンルでも、ゴールと検証の仕組みを渡せば、動くものが仕上がりました。
社内ツールの試作、仮説検証、使い捨てのプロトタイプなど、「一人で多くのソフトづくりを監督する」働き方と相性が良さそうです。一晩の自動実行で詰める進め方は、人手の待ち時間を機械の計算時間に置き換える発想とも言えます。
作者自身が引いた線
一方で、Willison さん本人が慎重な線引きをしている点は見落とせません。
彼は「このやり方でソフトを作ることへの罪悪感がまだ抜けない」「経験の浅い分野で、これほど良いものを作る資格を得た気がしない」と書いています。コードをほぼレビューしていないことも明言しています。
さらに、このゲームを Steam のイベントには出さない方針だとも述べています。“低労力”の生成物があふれる場に並べたくないという理由です。そして、こうした作り方を許容できるのは「懸かっているのがゲームの勝敗だけで、データの安全性ではないから」だと枠組みを示しています。
裏を返せば、レビュー無しでエージェントに任せる手法には、品質保証・保守・作り手の理解の空洞化といった懸念が残るということです。華々しい成果の裏で、こうした線引きをどう引くかも問われます。“任せきり”にしてよい範囲を自分で決める姿勢は、実務へ取り入れる際の参考になります。
参照: Simon Willison「Battle Drones - a vibe coded RTS with audio-based multiplayer」 / AI News for October 21, 2026 (aiweekly.co) / Battle Drones: What 12 Iterations of 'Make It More Fun' Reveals (DEV Community) / Battle Drones: Claude Code RTS With Audio Multiplayer (explainx.ai)


